新生児における外科的救急疾患
鼠径ヘルニア
新生児、特に早産児に多く見られるのが鼠径ヘルニアです。これは腸が腹壁を通じて鼠径部に突出する状態で、特に右側に発生しやすく、嵌頓(腸が詰まり血流が止まる状態)のリスクがあります。診断後は手術が必要ですが、早産児では体重が2kgに達するまで待機することが一般的です。
胃穿孔と回腸穿孔
新生児の胃穿孔は、主に生後1週間以内に自然発生することが多く、原因は不明です。穿孔が発生すると、腹部膨満や呼吸困難などが見られ、緊急の外科的処置が必要です。死亡率は高く、早産児では特に注意が必要です。回腸穿孔も同様に危険な状態で、早産児に多く見られます。これも外科的修復が必要です。
壊死性腸炎(NEC)
壊死性腸炎は新生児、特に早産児に多く見られる腸の疾患で、腸壁が壊死し、腸穿孔に至ることがあります。治療には経腸栄養の中止、抗菌薬の使用、必要に応じて外科的介入が行われます。死亡率は20~30%と高く、特に重症例では適切なタイミングでの手術が求められます。
腸間膜動脈閉塞症
まれな疾患ですが、腸間膜動脈が血栓や塞栓によって閉塞することがあります。これは腸の広範な壊死を引き起こし、外科的処置を必要とします。特に早産児でのリスクが高く、早期の診断と治療が求められます。
受診すべき目安
新生児において以下の症状が見られた場合、すぐに医療機関を受診する必要があります。
- 突然の腹部膨満や異常な硬さ。
- 持続する嘔吐。
- 呼吸困難。
- 異常なぐずりや反応の鈍さ。
- 鼠径部の腫れが見られる場合や、触っても引っ込まない場合。
迅速な医療介入が必要なことが多いため、これらの症状が現れた際は速やかに当院までご相談ください。
胆道閉鎖症とは
胆道閉鎖症は、生後2~3週間の赤ちゃんに見られる深刻な肝臓の病気です。この病気では、肝臓から腸に胆汁を運ぶ胆管がふさがるため、胆汁が正常に流れず、肝臓に蓄積して肝障害を引き起こします。症状としては、黄疸(皮膚や目の白い部分が黄色くなる)、濃い色の尿、灰白色の便、肝臓の腫大などがあります。胆汁の流れが妨げられることで、脂肪や脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収が不良となり、発育不全やビタミン欠乏症が引き起こされることもあります。
症状の進行と診断
生後2〜3ヶ月に達すると、赤ちゃんは成長が遅れ、食欲が減退し、腹部に太い静脈が浮き出て見えることがあります。また、脾臓が拡大し、腹部膨満感やむずかりやすくなる症状が現れることもあります。これらの症状は、病気が進行していることを示し、早急な診断と治療が必要です。診断には、血液検査、超音波検査、放射性物質を用いた画像検査、場合によっては肝生検や術中胆道造影が行われます。これらの検査を通じて、胆道がどの程度ふさがっているか、肝臓にどの程度の障害が生じているかを確認します。
治療法と予後
胆道閉鎖症の治療の第一選択肢は手術です。カサイ手術(肝門部空腸吻合術)が一般的に行われ、これにより新しい胆汁の排泄経路を作り、肝臓の損傷を軽減させることが目指されます。しかし、手術が成功しても、進行性の肝疾患や肝硬変のリスクは依然として高く、肝移植が必要になる場合もあります。早期診断と迅速な手術が、治療の成功率を高めるために重要です。治療を受けなかった場合、通常、胆道閉鎖症の子供は1歳までに肝不全に陥る可能性が高いとされています。
受診の目安
胆道閉鎖症は早期発見が極めて重要です。生後2週間を過ぎても黄疸が続いている場合、または尿の色が濃くなり便が白くなっている場合は、直ちに当院までご相談ください。特に、生後2~3ヶ月の間にこれらの症状が進行し、さらに成長の遅れやむずかりが見られる場合は、すぐに専門的な診断と治療が必要です。早期の治療が赤ちゃんの長期的な健康に大きな影響を与えるため、迅速な対応が不可欠です。
腸重積症
腸重積症は、幼児の腸の一部が他の腸に滑り込むことで、腸の閉塞を引き起こす病気です。この病気は一般的に生後6ヶ月から3歳の小児に見られ、特に男児に多く発生します。
症状と特徴
腸重積症の主な症状は、突然の激しい腹痛と嘔吐です。この痛みは典型的には15~20分間続き、その間に子どもは不機嫌になり、場合によってはぐったりすることもあります。痛みが発生していないときは、比較的元気そうに見えることが多いですが、虚血が進行すると持続的な痛みが現れ、より深刻な症状が出ることがあります。腸の内側に出血が起こり、イチゴゼリー状の便(血液と粘液が混ざった便)や発熱も見られる場合があります。
特に悪化すると、腸が穿孔することがあり、腹部が非常に痛み、触診でソーセージ状のしこりが感じられることもあります。この病気は、時には痛みがなく、ぐったりとした様子だけが見られることもあり、注意が必要です。
診断と治療
診断は、腹部の超音波検査が一般的に使用され、腸重積が確認されます。また、腹部のX線検査やCT検査が行われることもあります。症状がない場合でも、画像検査で偶然発見されることもあり、その際は経過観察が選択されます。
治療法としては、空気注腸が最も一般的です。この手法では、空気を直腸に送り込み、X線画像で確認しながら腸の位置を元に戻します。空気注腸で症状が改善しなければ、手術が必要となることがあります。また、再発リスクも5~10%とされており、処置後の経過観察が重要です。
再発と手術
空気注腸が成功した後でも、再発するリスクがあるため、退院後も数日間は子どもの様子をよく観察する必要があります。再発した場合や腸穿孔の兆候が見られる場合には、手術が行われます。手術では、滑り込んだ腸を元に戻すとともに、再発の原因となる可能性がある腸の一部を切除することもあります。
受診の目安
腸重積症は早期発見と治療が重要です。以下の症状が見られた場合には、すぐに当院までご相談ください。
- 突然の強い腹痛が断続的に繰り返される。
- 嘔吐が続く。
- イチゴゼリー状の血便が見られる。
- 子どもがぐったりとして元気がない。
- 腹部にしこりが感じられる。
停留精巣
停留精巣(陰睾症)は、男児において精巣が陰嚢内に正常に降りてこない状態を指します。通常、胎児期の発達過程で精巣は腹部から陰嚢に向けて移動しますが、この移動が妨げられることで停留精巣が生じます。停留精巣は生後まもなくの新生児に多く見られ、早産児に特に高い頻度で発生します。健康な男児でも約3%に停留精巣が見られますが、早産児では最大30%に達することもあります。
停留精巣の分類
停留精巣は、その位置により「腹腔内型」と「鼠径管内型」に大別されます。腹腔内型では精巣が腹部内に留まっている状態であり、鼠径管内型では鼠径部に留まっています。停留精巣は片側性または両側性のいずれかであり、片側性の場合が多く報告されています。
停留精巣の原因
停留精巣の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的要因やホルモンの異常、解剖学的要因が関与していると考えられています。例えば、カルマン症候群などの遺伝的疾患では、黄体形成ホルモンと卵胞刺激ホルモンの欠乏により、精巣の正常な発達と降下が阻害されることがあります。
停留精巣の診断と治療
診断は、出生時の身体検査や、精巣の位置確認のための画像検査(超音波検査やMRI)を通じて行われます。多くの場合、停留精巣は自然に降下することが期待されますが、6ヶ月を過ぎても精巣が陰嚢内に降りてこない場合、治療が推奨されます。治療には、精巣を陰嚢内に固定する「停留精巣整復術(オルキドペクシー)」が一般的に行われます。この手術は通常、生後6~12ヶ月の間に行われ、精巣の正常な発育と将来の生殖能力を保つために非常に重要です。
停留精巣のリスク
停留精巣は、適切に治療されない場合、以下のようなリスクが伴います。
- 不妊症:精巣が高温の腹部に留まると、精子の生成が障害され、将来的な不妊リスクが増加します。
- 精巣がん:停留精巣は精巣がんの発症リスクを高める要因とされています。リスクは、特に精巣が陰嚢内に固定されないまま放置された場合に増加します。
- 精巣捻転:精巣が異常な位置にあることで、精巣の血流が遮断される精巣捻転が発生しやすくなります。
受診の目安
停留精巣が疑われる場合は、早期に当院までご相談ください。特に、生後6ヶ月を過ぎても精巣が陰嚢に降りてこない場合や、片側または両側の陰嚢に明らかな精巣の不在が見られる場合は、専門医の診察を受ける必要があります。また、停留精巣の治療を受けた後も、定期的な経過観察が推奨され、精巣がんの早期発見のためのフォローアップが必要です。